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中医学の過去と展望

中医学の過去と展望について

中医学の歴史は人類の歴史と共にあります。
悠久の昔から、人間も動物も体の具合が悪いときに、本能によって植物や鉱物などを必要に応じて食していたと言われています。
紙や文字がない時代には口から口へと有効な情報が伝えられ、その後、時を経て、膨大な経験実績が体系づけられ、「中医学」として 様々な書物に遺されました。
中国では紀元前4世紀に『黄帝内経(こうていだいけい)』という優れた医学書があらわされ、その中には、「優れた医者は、病気に なる前に先手を打って病気の芽をつむ(未病を治す)」という記載があり、すでに予防医学の重要性が説かれていますが、自然生薬を 用いた薬物療法が行われるようになったのはそれ以前のことです。
そして、3世紀には自然生薬による薬物治療の古典『傷寒論(しょうかんろん)』が現されました。
※文末に特に肺疾患について記載されている文献を一部ご紹介しています。

一方、西洋医学における16世紀以降の目覚しい発達には、周知のとおり、解剖学、顕微鏡の発明、麻酔や消毒の技術、化学合成医薬 品の開発、ホルモン療法の進歩、医療機器の高度化、臨床検査法の発達や抗生物質の発見などがあげられます。それらは、感染症や伝 染病の減少、寿命の延長など人類に多大な貢献をし、今や医学界の主流となっています。
しかし、20世紀後半になり、自律神経系、ホルモン内分泌系、免疫系にかかわる病気が増え、人体を細分化して考える固体病理学だ けでは対応しきれなくなっている現実があります。
最近では薬物耐性結核などの菌の出現、院内感染、細菌の進化、医療事故、重い副作用など現代医学は多くの問題をかかえています。

日本では、数年前からの漢方ブームにより多くの方の関心を集めているようですが、医療の現場において適切な処方や治療が行われて いるかと言えば、本格的な治療には程遠いというのが現状です。まず、真の中医学を学ぶ教育機関がありません。国際中医師免許制度 も内容的に未熟です。日本語に翻訳されている文献やテキストもまだまだ少なく、日々進歩している中医学の新しい情報が決定的に不 足しています。漢方エキス剤を処方している医療機関は増えてはいますが、処方内容や使用方法が西洋医薬的なため、患者一人一人の 体質や変化していく病状に適応する治療は難しいと言わざるを得ません。また、誤った漢方薬の使い方による副作用などの問題も後を 絶ちません。

日本国内で使用できる生薬の種類は、国の輸入制限により、上海、香港、シンガポールに比べると10分の1くらいですので、日本国内で の自由処方には限界があり、たとえ経験ある優れた中医師でも、その実力を充分に発揮することは至難の業でしょう。

また、良質な生薬の入手や価格、流通過程、医療制度、保険制度などの問題により、経済的負担もかなりの額になるはずです。そのため 、海外に本格的な漢方治療を求める人が増えているのでしょう。

近年、日本の一部の医学部においても中医理論や針灸が学べるようになったようですが、中国・台湾の中医薬大学の中医学部では、西洋 医学と中医学を両方学び、卒業後どちらを専門にするかを選択するシステムとなっています。
医療現場においては、中医学による本格的治療を受けるための入院施設も一般的です。
そこでは、生薬を煎じて服用するだけではなく、生薬製剤を直接ツボ、筋肉、皮下、血管へ注射や点滴にて体内へ入れる方法も行われ、 必要に応じて西洋薬や外科処置も併用されています。
この中医学の英知の数々は、近年になって特に欧米が注目し研究が進められているようですが偶然にも私は、数年前にマレーシアで欧米 の研究グループが昆虫の薬効について同じ地域のジャングルに入っているという情報を得て、「自然生薬(欧米ではハーブ療法と呼ぶ) を超えて、すでに昆虫の研究に入っているのか・・・」と驚いたことを思い出します。
西洋医学の歴史については、ここでは詳しく述べませんが、ただ、現在のように進歩する前には、西洋においても現在の中医学の概念と 似た全身的治療を説き、自然治癒力の存在を重視し、治療の柱とした優れた医者たち(ヒポクラテスなど)が存在したことを記しておき ましょう。
医療技術の発達による細分化、専門化、分析する傾向の強い西洋医学の他に、「中医学」という宇宙自然観の陰陽・五行を理論とする天 人合一、天・地・人、一体の異なる概念で人体をとらえている医学体系があるのです。その特徴は、人体を《心を宿す有機的存在》《一 つの小宇宙》とみなし、体の一体性、人体と自然環境とは分割不可能であるという全体観の哲学医理に基づいて、失った体のバランスを 是正していく治療法にあります。
近年においては、人間をはじめとする動植物・鉱物などが発する生命・生体エネルギーについても研究が進み、中医学でいう『臓腑・精 気神・津血』の基本医理や、針灸の『経絡』など目に見えない生体エネルギー(生命現象)の存在も解明されつつあり、医学界でも注目 され医療現場でも実際に使われています。
大自然の『気(エネルギー)』が凝縮された自然生薬を用いて、体に備わっている自然治癒力・生命力・免疫力を活性化し高めることに よって健康を取り戻していこうとする中医学と、発達した西洋医学との併用、両医学の特性を生かした「中西結合治療法」が最善最適の 治療法として世界の主流となる日もそう遠くないでしょう。

<文献>

数千年前の中医学(漢方医学)文献には、この疾患に酷似した肺疾患を治療した記録が数多く遺されています。
下記は各朝を代表する医学著作中に肺疾患に関する治療の篇章(一部)です。
  • ○春秋戦国(BC770年~)東漢(AC24年)にかけて整った医学論文集。
    《黄帝内径》素問・陰陽別論中の咳嗽篇。
  • ○張機(仲景)(AC206年)著《傷寒論・金匱要略心典》肺痿・肺癰・咳嗽上気病脈治;第七篇。
  • ○晋朝・王叔和(AD250年頃)著《脈経》平肺痿・肺痿・咳逆上気・痰飲脈篇。
  • ○隋朝・巣元方(AD560年頃)著《諸病源候論》に咳痿諸候篇。
  • ○隋朝~唐朝・孫思邈(AC600年頃)著《備急千金要方》巻六咳嗽篇巻十七、肺労、気極、積気、肺痿、肺癰篇九首。
  • ○唐朝・王寿(AC752年頃)著《外台秘要》巻九咳方、巻十肺痿方。
  • ○宋朝・王懐隠などの合著(AC992年頃)《太平聖恵方》癰証候好、悪法、肺篇
  • ○元朝・斉徳之(AC1300年頃)著《外科精義》論診候、肺痿、肺癰法。
  • ○明朝・龔延賢(AC1600年頃)著《寿世保元》肺癰篇。
  • ○清朝・喩昌(AC1658年頃)著《医法法律》咳嗽門、肺痿、肺癰門。
  • ○清朝・沈金鰲《雑病源流犀燭・肺病源流》肺痿篇。
  • ○近代《中医臨床内科学》咳嗽、肺痿、肺癰、肺脹、哮喘、など専論。
AC1911年まで肺疾患に対する論説は代表的な医学者28人が著作、論述は62篇に及ぶ。